公文書管理条例を読み解く〔千葉市〕 ――公文書管理法に忠実な条例設計をどう読むか
千葉市は、公文書管理条例を制定し、公文書館を設置し、公文書管理委員会(審査会)を備える自治体である。
制度的な装備は一通り整っており、本稿ではそれ自体を「特徴」として評価することはしない。
本稿の関心は、
千葉市の公文書管理条例が、どのような前提と思想に基づいて設計されているか
を読み解く点にある。
1.千葉市条例の基本的な位置づけ
千葉市の公文書管理条例は、
公文書管理法の制度設計を忠実に踏まえた、比較的オーソドックスな条例と整理できる。
条例全体を通して見ると、力点は
- 文書の保存
- 保存期間満了後の廃棄
- 特に慎重に扱うべき文書の指定
といった、非現用段階に置かれている。
これは、千葉市が独自に消極的な姿勢を取っているからではない。
公文書管理法の枠組みに沿って自治体条例を設計すると、自然にこうした構造になる。
2.「公文書等」という包括概念の意味
千葉市条例では、
- 行政文書
- 特定重要公文書等
を含めて、**「公文書等」**という用語が用いられている。
定義規定だけを見ると、公文書管理法と大きな違いはないように見える。
しかし重要なのは、用語そのものではなく、その使われ方である。
公文書管理法では、
- 行政文書(現用段階)
- 特定歴史公文書等(非現用段階)
が、制度上はっきりと分けられ、
段階が変わると管理主体と制度も切り替わる。
これに対し千葉市条例では、
文書がどの段階にあっても、
同一の条例体系の中で、
一貫した管理責任の下に置かれる。
この考え方を制度上示すために、
「公文書等」という包括概念が用いられている。
3.なぜ自治体では「束ねる」設計になりやすいのか
この点は、国と自治体の責任構造の違いから理解できる。
国では、
- 現用段階は各府省
- 非現用段階は公文書館
というように、組織と役割が段階ごとに分かれる。
そのため、文書管理も段階で分けて設計される。
一方、自治体では、
- 文書を作るのも
- 保存するのも
- 公文書館を運営するのも
- 情報公開で説明するのも
すべて同一自治体である。
住民から見れば、
「どの段階の文書か」ではなく、
「自治体として説明できるか」
が問われる。
このため自治体では、
文書管理を段階で切り分けるよりも、
一つの制度として束ねた方が説明責任上わかりやすい。
千葉市の整理は、この自治体特有の事情を正直に反映したものと読める。
4.「歴史」ではなく「重要」を用いている理由
千葉市条例では、公文書管理法が用いる
「特定歴史公文書等」という表現ではなく、
**「特定重要公文書等」**という用語が採用されている。
これは、
- 歴史を軽視している
- 保存意識が低い
という意味ではない。
自治体にとってまず引き受けるべきなのは、
- 将来の歴史評価よりも
- 今、安易に廃棄してよいか
- 将来、住民に説明できるか
という判断である。
そのため、学術的・将来的評価を含む「歴史」ではなく、
行政として判断可能な「重要」という言葉に概念を引き寄せている。
5.廃棄段階での委員会関与という整理
千葉市では、公文書管理委員会が、
保存期間満了後の文書の廃棄についても関与する仕組みが採られている。
このような廃棄チェックは、市役所レベルでは決して珍しいものではない。
多くの自治体で、第三者的機関が廃棄判断に関与している。
ただし、公文書管理法と比べると違いがある。
公文書管理法では、
- 廃棄判断は各行政機関の長が行うことを基本とし
- 委員会は制度全体への意見具申が中心で、
個別廃棄案件への関与は必ずしも想定されていない
一方、自治体では、
「なぜ捨てたのか」を
後から説明できる構造が不可欠である。
このため、廃棄段階での委員会関与が厚く設計されやすい。
ここには、国と自治体の説明責任の帰着点の違いが表れている。
6.整理すると
千葉市の公文書管理条例は、
- 公文書管理法の制度設計を忠実に踏まえ
- 保存・廃棄といった非現用段階に制度の重心を置きつつ
- 自治体として引き受ける説明責任を見据えて
文書管理を一つの流れとして束ねる
という思想で構成されている。
これは、特段に先鋭的な設計ではないが、
公文書管理法に沿って自治体制度を組み立てた場合の
一つの標準形と位置づけることができる。
おわりに
千葉市のケースは、
- 公文書管理条例を制定すると、
どのような設計になるのか - 公文書管理法に忠実であるとは、
どういう意味を持つのか
を理解するうえで、
重要な基準点となる事例である。
この位置づけを踏まえることで、
他自治体の条例が
どこが公文書管理法に忠実で、どこで踏み込んでいるのかも、
より読み解きやすくなるだろう。

