はじめに

公文書管理条例を読み解こうとすると、
保存年限や公文書館、評価制度といった論点に目が向きがちである。
しかし、その前に一度立ち止まって考えておきたいのが、
「文書作成」という出発点である。

条例がどれほど整っていても、
そもそもどのような文書が作成されることを前提にしているのかによって、
制度の実効性は大きく左右されるからだ。

1.公文書管理制度は「作成」から始まっている

公文書管理法や各自治体の公文書管理条例を読むと、
制度の起点が「文書の作成」に置かれていることが分かる。

行政の意思決定や事務の処理は、
文書として作成され、管理されることを前提としている。
これは、日本の行政が長く採用してきた文書主義に基づく考え方であり、
決して新しいものではない。

しかし、この文書主義は、
文書が存在すること
文書が説明責任を果たせること
必ずしも明確に区別してきたわけではない。

2.「作成義務」は誰に課されているのか

多くの公文書管理条例では、
文書を作成する主体は「行政機関の職員」と整理されている。

文書作成は具体的な行為である以上、
職員に作成義務が置かれること自体は自然である。

ただし、ここで一つの問いが浮かぶ。

文書は、
職員個人の責任として作成されているのか。
それとも、
行政機関(組織)の責任として作成されているのか。

条文上は「職員」が作成主体であっても、
その文書は最終的に、
組織としての判断や説明の根拠になる。

この点が曖昧なまま運用されると、
後になって「誰の責任だったのか」が分からなくなる。

3.「文書はあるが、説明できない」という状態

近年、自治体の現場からよく聞かれるのが、
次のような状況である。

  • 決裁文書は存在する
  • 形式上の要件も満たしている
  • しかし、なぜその判断に至ったのか説明できない

電子化が進み、
過去の文書を容易にコピーできるようになったことで、
文書はあるが、中身が判断理由を語らない
という状態が生じやすくなっている。

ここで問題になるのは、
「文書を作成しているかどうか」ではなく、
**「説明できる文書になっているかどうか」**である。

4.職場ローテーションが前提の行政組織では

自治体では、職場ローテーションが前提である。
この仕組みには、

  • 組織の硬直化防止
  • 人事の公平性の確保

といった合理性がある。

一方で、短期間で担当者や管理職が入れ替わる環境では、

  • 文書に書かれていない判断理由
  • 担当者の記憶に依存した経緯

は、容易に失われる。

その結果、

「当時の担当者が判断した」
「詳しいことは分からない」

という説明しかできなくなる場面が生じる。

5.「作成したか」ではなく「成立しているか」

ここで重要なのは、
文書が存在するかどうかではない。

問われるべきなのは、

その文書が、
組織として説明責任を果たせる状態で
成立しているかどうか

である。

文書作成とは、単に書類を作ることではなく、

  • 判断の理由
  • 検討の経過
  • 採用しなかった選択肢

が、後から第三者にも理解できる形で残っているか、
という問題である。

6.条例を読み解くための補助線として

この視点を持つと、
公文書管理条例の読み方が変わってくる。

  • この条例は、
    文書作成をどこまで組織の責任として捉えているか
  • 作成行為を、
    個人任せにしていないか
  • 説明可能性を、
    どの段階で担保しようとしているか

こうした点は、
条文をそのまま読むだけでは見えにくい。

しかし、
「文書作成」という出発点を意識すると、
条例の思想や限界が浮かび上がってくる。

おわりに

公文書管理条例を読み解くためには、
保存や公開の議論に入る前に、
まず「文書作成」という出発点を
丁寧に見直すことが欠かせない。

この視点を共有した上で、
各自治体の公文書管理条例を見ていくことにしたい。

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