※以下は、法律解釈を専門的に論じるものではない。
自治体実務の視点から、公文書管理法と条例の書きぶりが、
現場の文書作成や責任の捉え方にどのような影響を与えているかを整理したものである。

公文書管理条例は、全国的に見ると条文構成や用語が似通っている。
しかし、自治体ごとに読み込んでいくと、文書作成や運用の考え方には明確な違いがある。

その違いは、制度の完成度や職員の力量差というより、
「何を最も避けたい事態として制度を設計しているか」
の違いとして現れる。

この視点で見ると、
大阪市の公文書管理は、
きわめて一貫した問題意識に基づいて設計されている
ことが分かる。

1.大阪市が最も避けたい事態

大阪市の条例と運用を通して見えてくる最大の関心は、次の点にある。

後になって、
組織として判断理由を説明できなくなること

  • 決裁はされている
  • 文書は存在する
  • しかし、
    なぜその判断に至ったのかを
    組織として説明できない

大阪市は、この状態を
公文書管理上の根本的なリスクとして捉えているように見える。

2.公文書管理法における「文書の作成」の位置づけ

公文書管理法の第4条(文書の作成)は、
文書作成について次のように規定している。

行政機関の職員は
当該行政機関の職務の遂行に当たり、
処理の経過及び結果が合理的に跡付けられるよう、
行政文書を作成しなければならない。

この条文だけを素直に読めば、
文書作成は「職員の行為規範」として書かれている
と理解するのが自然である。

一方で、

  • 情報公開
  • 監査
  • 議会での説明

の場面で問われるのは、
常に「行政機関」としての説明責任である。

ここに、
作成は職員、説明は組織という、
実務上のねじれが生じやすい構造がある。

3.大阪市の整理

――「作成行為」「成立」「責任」を分けて考える

大阪市の特徴は、
このねじれを放置せず、運用の中で整理し直している点にある。

大阪市の公文書管理では、次の三点が明確に分けられている。

  • 作成行為
    起案・記述・編集といった作業は、職員が担う
  • 成立
    文書は、行政機関の職務として成立し、
    組織の判断を跡づけるものとして位置づけられる
  • 責任
    成立した文書が説明可能な状態にあるかどうかは、
    行政機関として引き受ける

ここで重要なのは、
「組織が文書を仕上げる」といった曖昧な整理を取らず、
行為は個人、成立と説明責任は組織
という構造を明確にしている点である。

4.評価を後段に委ねすぎないという発想

公文書管理の議論では、
評価は公文書館やアーキビストの役割とされがちである。

大阪市も、
歴史的価値の評価そのものを否定しているわけではない。
しかし同時に、次の点をはっきり区別している。

  • 後から保存価値を判断する評価
  • そもそも説明可能な記録として成立しているかの確認

後者を後段に委ねてしまえば、
その時点では手遅れになる。

そのため大阪市では、
現用段階で「説明できる文書」を成立させることが、
制度の中心に据えられている。

5.「信じて決裁した」が通りにくい構造

百条委員会などでしばしば聞かれる、

「詳しいことは分からないが、部下を信じて決裁した」

という説明は、
大阪市の制度設計が最も避けようとしている状況の一つである。

大阪市の公文書管理では、

  • 誰を信じたか
    ではなく
  • 文書そのものが説明できるか

が問われる。

人の記憶や善意ではなく、
記録が説明責任を引き受ける
という考え方が、一貫している。

6.条例と「解釈・運用の手引き」をセットで持つ意味

大阪市のもう一つの重要な特徴は、
条例に加えて、解釈や運用の考え方を示した手引きを整備している点である。

条例は、
国の法律をそのまま写しただけの事務ルールではないが、
それでも条文は抽象的にならざるを得ない。

大阪市では、
条例の趣旨を
解釈・運用のレベルまで落とし込み、
現場が判断に迷わないための補助線
として
手引きを位置づけている。

これにより、
条文が形式的に守られるだけにとどまることや、
過度な縮小解釈・拡大解釈が行われることを防ぎつつ、
規則については、
その趣旨の範囲内であれば、
環境変化に応じた見直しを行いやすくしている。

おわりに

大阪市の公文書管理は、
文書を「作るかどうか」という問題ではなく、

後になって説明できなくなる事態を、
いかに未然に防ぐか

という問いへの応答として設計されている。

公文書管理法が
文書作成を職員の行為規範として書いている中で、
大阪市は、

  • 作成行為は職員が担う
  • しかし、
    説明できる文書として成立しているかどうかは、
    組織の問題である

という整理を、
条例解釈と運用によって明確にしている。

この点にこそ、
大阪市の公文書管理を読み解く際の
最も重要なポイントがある。

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