公文書管理は、誰の仕事か ― 判断と責任の所在から考える 第5回
はじめに
― なぜ「現場の工夫」だけでは足りないのか
ここまで、自治体業務を
「定型型」「事案処理型」「プロジェクト型」という仕事のかたちで整理し、
とくに継続事案処理型業務において、
判断の理由が後から説明しにくくなる構造を見てきました。
この問題は、
担当者の姿勢や努力の問題ではありません。
また、文書が不足しているという単純な話でもありません。
多くの場合、
どの判断について、どこまで説明できる必要があるのか
が、組織として明確に共有されていない。
その結果として生じている問題です。
本稿では、この点を
組織の役割という視点から整理してみたいと思います。
第1章 判断は現場で行われ、説明責任は組織が負う
1-1 判断は、現場の担当者によって行われている
日々の業務における判断は、
現場の担当者によって行われています。
申請への対応、照会への回答、
状況に応じた助言や指導。
これらはすべて、その時点での担当者の判断です。
1-2 説明を求められるのは「自治体」という組織である
一方で、後から説明を求められる場面では、
「誰が担当だったか」が問われることはほとんどありません。
- 情報公開請求
- 監査や検証
- 住民からの説明要求
問われるのは、
自治体として、なぜそう判断したのかです。
判断の結果は、
最終的には組織として引き受けることになります。
第2章 説明しにくい判断は、どこから生まれるのか
2-1 記録がないから説明できない、とは限らない
説明に困る場面でも、
決定通知や回答文など、文書自体は存在していることが多くあります。
それでも理由まで説明しにくいのは、
判断の理由をどこまで残すかが、個人に委ねられている
という状況があるためです。
2-2 ばらつきが生じるのは、組織としての基準がないから
担当者によって、
- 理由まで丁寧に書く場合もあれば
- 結論を簡潔にまとめる場合もある
こうした違いは、能力や姿勢の差というよりも、
組織としての共通認識が定まっていないことに起因します。
第3章 公文書管理は「後から整える仕事」ではない
3-1 判断の理由は、後追いでは再現しにくい
判断の理由は、
その時点での状況認識や考え方と密接に結びついています。
時間が経ってから、
当時の判断理由を正確に再現することは容易ではありません。
3-2 公文書管理は、判断を支える環境づくり
公文書管理の本質は、
後から文書を整えることではなく、
判断の理由が自然に残り、説明しやすい状態を
あらかじめ整えておくことにあります。
第4章 管理職に期待されている役割
4-1 管理職は、専門家である必要はない
行政の管理職の多くは、
特定分野の専門職ではなく、
複数の部署を経験してきた総合職です。
この総合性は、
継続事案処理型業務において、
重要な意味を持ちます。
4-2 管理職に求められているのは「判断の見通し」
管理職に求められているのは、
個々の判断の正誤を専門的に評価することではありません。
むしろ、
- この判断は、今後も前提として使われるのか
- 別の場面でも、同じ説明が通用するのか
- 将来、第三者に説明を求められる可能性があるのか
といった、分野を越えた見通しを持つことです。
こうした視点から、
「この判断については、理由まで説明できる必要がある」
と整理することは、
総合職としての管理職だからこそ担える役割です。
おわりに
― 公文書管理は、組織として判断を引き受けること
公文書管理は、
文書を整理するための作業ではありません。
自治体が行ってきた判断について、
なぜそう判断したのかを説明できる状態を、
組織として支えることです。
どの判断について、
どこまで説明できる必要があるのか。
その考え方を共有し、
現場の判断を組織として引き受ける。
公文書管理とは、
そのための土台づくりなのではないでしょうか。

