事案の中で、判断はどう残るべきか ― 継続事案処理型業務と記録の役割 第4回
はじめに
― 判断は、後から理由まで説明できているか
判断は、どこか別の場所に残すものではありません。
自治体業務において、判断は原則として、事案(ケース)に紐づく記録の中にあります。
決定通知、回答文、指導結果──判断の結果そのものは、たいてい残っています。
それでも、後になって説明に困る場面があります。
「なぜ、この判断になったのか」
「当時、何を前提にしていたのか」
そう問われたとき、文書は揃っているはずなのに、理由まで説明できない。
本稿では、この違和感を出発点にします。
扱うのは、記録をどこに置くか、どう管理するか、という話ではありません。
この事案について、なぜその判断に至ったのかを、後から説明できる状態になっているか。
その一点を、継続事案処理型業務を念頭に整理してみたいと思います。
第1章 判断は「結論」としては残っている
1-1 決定文書は、たいてい存在している
多くの事案では、最終的な判断結果は文書として残っています。
決定日、決定内容、通知先。
結論そのものが存在しないケースは、むしろ例外でしょう。
つまり、問題は
「判断が記録されていないこと」
ではありません。
1-2 それでも説明に困るのはなぜか
説明に困るのは、結論が分からないからではありません。
困るのは、
- なぜその判断に至ったのか
- 他にどんな選択肢があり得たのか
- それらをなぜ選ばなかったのか
といった点を、事案の記録だけで説明できないときです。
判断は存在します。
しかし、その判断が、結論だけに圧縮された形でしか残っていない。
ここに、説明の難しさがあります。
第2章 説明できなくなるのは、判断の「前提」
2-1 前提や条件、「あとで見直す可能性」は文書に残りにくい
判断には、必ず背景があります。
その時点でどのような状況だったのか、どの条件を重視したのか、そして現時点ではこう判断するが、状況が変われば見直す可能性があるのかどうか。
こうした要素は、実務の中では当然のように意識されています。
しかし、決定通知や回答文といった文書には、
これらが書かれないことが少なくありません。
- 当時の状況認識
- 判断の前提となった条件
- 「現時点での判断」であるという含み
結果として残るのは、
最終的な結論だけです。
それ自体は誤りではありません。
ただし、その判断が
「どのような前提のもとで行われたものなのか」
「どこまでが確定で、どこから先が状況次第だったのか」
を後から説明できなくなると、判断は文脈を失います。
2-2 継続事案では、前提が次の判断の理由になる
単発の事案であれば、
判断の前提が多少見えなくても、大きな問題にならないことがあります。
しかし、継続事案では事情が異なります。
- 前回の判断が、次の判断の理由として参照される
- 前提が変われば、判断も変わり得る
- 前提が分からなければ、判断の妥当性を説明できない
つまり、継続事案においては、
前提そのものが、次の判断理由の一部になります。
前提が説明できない状態で結論だけが残ると、
判断は独り歩きし、説明が成り立たなくなります。
第3章 同じ事案を見ても、理由が説明できない状態
3-1 文書は揃っているのに、経緯が説明できない
事案ファイルを開くと、
- 文書は時系列に並んでいる
- 決定も通知も存在している
それでも、
「どういう考え方で、ここに至ったのか」を説明できないことがあります。
これは、記録が不足しているからではありません。
判断の理由が、点としてしか残っていないためです。
3-2 判断が積み重なっていることを説明できない
一つ一つの判断は、当時として妥当だった。
その点に疑いはありません。
それでも、
- なぜ方針が変わったのか
- どこで考え方が切り替わったのか
- 何が判断を変えたのか
を説明できないと、
判断の積み重なりとして業務を説明できません。
引き継ぎや検証の場面で違和感が生じるのは、
判断が誤っていたからではなく、
判断の理由が連続して説明できない状態にあるからです。
第4章 問題は「残す量」ではなく「説明できるか」
4-1 記録を増やす話ではない
ここで言いたいのは、
メモを増やそう、文書を追加しよう、という話ではありません。
記録の量を増やしても、
なぜそう判断したのかを説明できなければ、状況は変わりません。
4-2 問うべきは、この一点
問うべきなのは、ただ一つです。
この事案について、
なぜその判断に至ったのかを、
後から第三者に説明できるか
説明できるのであれば、
特別な工夫は必要ありません。
説明できないのであれば、
どこかで判断が「結論だけ」に縮んでいる可能性があります。
おわりに
― 判断とは、理由まで説明できて初めて成り立つ
判断は、事案の中に残っています。
それでも、理由まで説明できないことがあります。
問題は、管理方法でも、保存場所でもありません。
その判断について、なぜそう考えたのかを、後から説明できるか。
そこに尽きます。
継続事案処理型業務では、
判断は一度きりのものではなく、積み重なっていくものです。
だからこそ、結論だけでなく、
その判断に至った理由や前提の変化を、
後から説明できることが重要になります。
次回は、こうした状態を、
個人の工夫や善意に委ねず、
組織としてどう支えるのかを考えます。
次回予告(第5回)
次回は、継続事案処理型業務を前提に、
判断の理由を説明できる状態を、誰がどのように支えるのかを取り上げます。
公文書管理は、誰の仕事なのか。
判断と責任の所在という視点から、整理してみたいと思います。

