はじめに

公文書管理というと、申請書や通知文、決裁文書をきちんと保存すること──そんなイメージを持っている職員の方は多いのではないでしょうか。文書管理研修でも、「受付」「起案」「決裁」「保存年限」といった話が中心になりがちです。これらはいずれも、自治体業務の中で重要な役割を果たしています。

一方で、日々の仕事を振り返ってみると、「この業務、本当にそれだけで説明できるだろうか」と感じる場面も少なくないはずです。前例が通用しない相談、判断に迷うケース、関係部署との調整を重ねた結果としての決定──こうした過程は、決裁文書1枚には収まりきりません。

にもかかわらず、公文書管理の議論では、こうした仕事も含めて一律に「定型的な事務処理」として扱われてきた場面が、多かったのではないでしょうか。判断や検討の過程は「内部のやりとり」「参考資料」とされ、結果だけが公文書として残る──そんな整理に、心当たりのある方も少なくないはずです。

第1章 自治体の仕事は、本当に「定型事務」だけだろうか

1-1 定型事務として説明できる仕事

自治体には、手順が明確に決まっており、誰が処理しても同じ結果になる業務があります。
申請を受け付け、要件を確認し、決定し、通知する。支払や台帳処理も同様です。

こうした業務では、

  • 決められた手順どおりに処理されたか
  • 結果が正しく出ているか

が分かれば、後から説明することができます。
公文書管理で長く想定されてきたのは、主にこのような仕事でした。

1-2 定型で始まるが、途中で様相が変わる仕事

しかし実際には、定型事務として始まった業務でも、途中で判断が必要になることがあります。

  • 書類は形式上そろっているが、事情が複雑
  • 前例はあるが、そのまま当てはめてよいか迷う
  • 関係者の利害が衝突する

この時点で、業務は単なる「手続」ではなくなります。
何を根拠に、どの選択肢を選んだのか。
結果だけでは足りず、判断の過程が重要になる仕事に変わります。

第2章 自治体業務を3つの「仕事のかたち」で整理する

公文書管理を考える前提として、自治体の仕事を次の3つに分けて考えてみます。

2-1 ① 定型型業務

定型型業務とは、

  • 想定された条件の中で
  • 定められた手順に従って
  • 結果を出すことが目的の仕事

です。

ここでは、結果を示す文書が中心になります。
これまでの公文書管理は、この仕事のかたちを主に想定して設計されてきました。

2-2 ② 事案処理型業務(※非定型を含む)

事案処理型業務とは、

  • 個別の事案ごとに対応し
  • 原則は定型的に進むが
  • 状況に応じて判断や裁量が入り込む仕事

を指します。

いわゆる「非定型業務」と呼ばれてきたものの多くは、この中に含まれます。
重要なのは、例外や判断は「想定外」ではなく、最初から織り込まれているという点です。

この仕事では、

  • なぜその判断に至ったのか
  • 他にどんな選択肢があったのか

といった過程が、後から問われる可能性があります。

2-3 ③ プロジェクト型業務

プロジェクト型業務は、

  • 最初から正解が決まっておらず
  • 仮説を立て、見直しながら進み
  • 一定の目的に達したところで終了する

という仕事です。

企画、検討、調査などが典型です。
ここでは、判断の更新そのものが業務の本体になります。

第3章 この3つの違いは、何を変えるのか

3-1 違うのは「仕事の進み方」

3つの仕事のかたちは、見た目が違うだけでなく、仕事の進み方そのものが異なります。

定型型業務は、あらかじめ想定された条件の中で、決められた手順を順番に進めていく仕事です。途中で立ち止まることは少なく、処理が終われば業務も完結します。

これに対して事案処理型業務では、原則として定型的に進みながらも、途中で判断を求められる場面が生じます。仕事は一直線ではなく、途中に判断の節目があるのが特徴です。

さらにプロジェクト型業務では、最初から進み方が固定されていません。計画を立てて進めながら、途中で見直し、必要に応じて方向を変えていきます。判断と修正を繰り返しながら形を作っていく仕事だと言えます。

3-2 違うのは「記録に求められる役割」

仕事の進み方が違えば、記録に求められる役割も変わります。

定型型業務では、結果が分かれば説明が成り立ちます。
事案処理型業務では、結果だけでなく、判断の理由が分からなければ説明できません。
プロジェクト型業務では、判断がどのように更新されてきたか、その経過自体が意味を持ちます。

公文書管理は、業務のかたちに応じて、記録にどんな役割を持たせるのかを考えることから始まります。

第4章 公文書管理は「何を残すか」だけの話ではない

4-1 管理の仕方は、業務のかたちで変わる

公文書管理というと、「何を公文書として残すか」に目が向きがちです。
しかし実際には、

  • いつ確定させるのか
  • 途中経過をどう位置づけるのか
  • どこで一区切りとするのか

といった管理の仕方が、業務のかたちによって変わります。

4-2 定型事務の考え方を、すべての業務に当てはめない

定型型業務の考え方は、とても有効です。
しかし、それを事案処理型やプロジェクト型の仕事にそのまま当てはめると、

  • 現場に無理が出る
  • 判断の記録が残らない
  • 後から説明しづらくなる

といった問題が起きやすくなります。

おわりに

― 公文書管理を考える前に、立ち止まって考えたいこと

冒頭で触れたように、公文書管理というと、申請書や通知文、決裁文書をきちんと保存することがまず思い浮かびます。これらは自治体業務にとって欠かせないものであり、今後も重要であり続けるでしょう。

しかし、日々の仕事を振り返ると、決裁文書1枚では説明しきれない業務が数多くあることにも、改めて気づくはずです。定型事務として始まった業務が、途中で判断を伴う事案処理に変わることもあれば、最初から正解のないプロジェクトとして進む仕事もあります。

公文書管理を考えるうえで大切なのは、「どの文書を公文書にするか」だけではありません。
自分たちの仕事は、どのようなかたちで進む仕事なのか。
その仕事では、結果だけで足りるのか、それとも判断の過程まで含めて説明する必要があるのか。

この問いを共有することが、公文書管理を考える出発点になるのではないでしょうか。

次回予告

次回は、今回整理した「3つの仕事のかたち」を踏まえ、
「では、あの業務はどこに当てはまるのか?」
という疑問に向き合います。

定型事務のつもりで進めていた業務が、いつの間にか事案処理になっているもの。
一人の職員では完結せず、判断が積み重なっていく仕事。

具体的な自治体業務を念頭に置きながら、
「業務のかたち」と「記録の考え方」をもう一段整理してみたいと思います。