第2回 なぜ多くの企業は「文書管理」でつまずくのか ――分断された四本柱という構造問題
はじめに
前回は、
価値創造と信頼を同時に成立させるための経営基盤を
「四本柱」という構造で整理しました。
しかし現実の組織では、
この四本柱がそのまま一体として機能している例は多くありません。
品質マネジメントも、情報セキュリティも、
それぞれは整っているように見える。
それでも、文書・記録管理になると途端にうまくいかない。
本稿では、
この違和感を「個別の失敗」ではなく、
構造の問題として整理します。
文書管理は、なぜ後回しにされるのか
多くの企業で、文書・記録管理は次のような順番で扱われてきました。
- まず事業を回す
- 次に品質を安定させる
- 問題が起きればセキュリティを強化する
- 文書管理は、その後で余裕があれば考える
この順番は、一見すると合理的です。
文書管理は、売上を直接生むわけでもなく、
事故を即座に防ぐわけでもありません。
その結果、
文書・記録管理は常に
「重要だとは思うが、緊急ではないもの」
として後回しにされてきました。
四本柱が分断されると何が起きるか
第1回で示した四本柱は、本来、相互に依存しています。
- 価値創造は、記録されてこそ再利用できる
- 品質は、記録されてこそ検証できる
- セキュリティは、記録されてこそ説明できる
ところが実際の組織では、
これらは次のように切り分けられがちです。
- 価値創造:事業部門の話
- 品質:品質保証部門の話
- セキュリティ:IT部門の話
- 文書管理:総務・事務の話
こうして、
誰も全体を見ない構造が生まれます。
「やっていたはず」が通用しない瞬間
不祥事やトラブルが起きたとき、
企業が直面するのは、次の問いです。
- なぜ、その判断をしたのか
- どの時点で、誰が、何を根拠に決めたのか
- 他の選択肢は検討されなかったのか
このとき、
品質やセキュリティの仕組みが存在していたかどうかよりも、
それを説明できる記録が残っているかが問われます。
「やっていたはずだ」という主張は、
記録がなければ、
やっていなかったのと同じに扱われます。
内部統制が「回っていない」と感じられる理由
多くの企業では、
- 規程は整備されている
- ルールも存在する
- 監査も行われている
それでも、
内部統制がうまく機能していないと感じられる場面があります。
その理由の一つは、
判断の過程が記録として残っていないことです。
- 結果は分かる
- 手続も追える
- しかし、なぜその判断に至ったのかが分からない
この状態では、
内部統制は「存在していた」とは言えても、
機能していたとは言い切れません。
問題は「意識」ではなく「設計」にある
ここまで見てきた問題は、
担当者の意識や努力不足では説明できません。
- 成果が見えやすい領域が優先される
- 記録は後からまとめるものになりやすい
- 文書管理が経営と結びついていない
これらが重なった結果、
四本柱は分断されたまま固定されてきました。
つまり、
文書管理でつまずく理由は、
人の問題ではなく、設計の問題なのです。
おわりに
文書・記録管理がうまく機能しない背景には、
四本柱が一体として設計されていないという構造があります。
この構造を変えない限り、
ツールを導入しても、
規程を整えても、
同じ問題は繰り返されます。
次回は、
この分断が現場でどのような困りごとを生んでいるのかを、
現場の視点から見ていきます。
本シリーズで扱っているテーマ
本稿は、文書・記録管理を「事務」や「補助業務」としてではなく、
価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤として捉え直す
連載シリーズの一編です。
シリーズ全体では、
民間企業から自治体へと視点を移しながら、
現場・経営・制度という異なるレイヤーから、
文書・記録管理の意味を構造的に整理しています。
シリーズ構成
- 第1回
価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤
――「四本柱」で考える、これからの文書・記録管理 - 第2回
なぜ多くの企業は「文書管理」でつまずくのか
――分断された四本柱という構造問題 - 第3回
文書・記録は誰のために存在するのか
――現場の困りごとから見えてくる、本来の役割 - 第4回
内部統制はなぜ「回っていない」と感じられるのか
――現場の記録が、説明責任につながらない理由 - 第5回
自治体における「経営の最上位責任」とは何か
――企業経営との共通点と決定的な違い - 第6回
公文書管理条例は、何のために存在するのか
――事務規程ではなく「住民との約束」 - 第7回(最終回)
なぜ公文書管理は「改革」にならなければならないのか
――DXでも効率化でもない、本当の理由文書管理や公文書管理について、
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