はじめに

前回は、自治体における「経営の最上位責任」が
住民への説明責任として成立していることを整理しました。

今回は、その説明責任を
制度として担保する仕組みに焦点を当てます。
それが、公文書管理条例です。

公文書管理条例は、
文書をきれいに整理するためのルールではありません。
自治体が住民に対して果たすべき説明責任を、
継続的に成立させるための起点です。

なぜ「条例」でなければならないのか

多くの自治体には、
すでに文書管理規程や事務規程が存在します。

しかし、それらは原則として
内部運用のルールにとどまります。

一方、条例は、

  • 議会で議論され
  • 公に制定され
  • 住民に対して効力を持つ

という点で、性質がまったく異なります。

条例とは、
自治体が住民に対して
「このように説明責任を果たします」と
法的に約束する行為なのです。

条例は「ゴール」ではなく「起点」である

ここで重要なのは、
条例を最終到達点として捉えないことです。

条例は、
「これを守れば終わり」というゴールではありません。
むしろ、そこから
何をどう設計するかが問われます。

この関係を、構造として示すと次のようになります。

公文書管理条例を起点とした構造

この図が示していること
この図が伝えたいのは、
非常にシンプルな関係です。

  • 条例は起点である
  • その下で、公文書管理マネジメントが設計される
  • その設計が、
    • 政策の質
    • 業務の安定性
    • 情報管理の適切性
      に影響する

つまり、
条例は「文書をどう保存するか」を決めるものではなく、
判断・責任・検証をどう成立させるかを定める枠組みです。

事務規程だけでは、なぜ足りないのか

事務規程や内規は、
業務を円滑に進めるためには有効です。

しかし、

  • 誰が
  • どの判断に
  • どの責任を負うのか

という点について、
住民に対して説明する根拠にはなりません。

条例を起点としない限り、
公文書管理は
「内部で守っているルール」の域を出ないのです。

条例があることで、初めて設計できること

条例を起点に据えることで、
次の問いが初めて正面から扱えるようになります。

  • どの判断を記録として残すべきか
  • 何をもって「説明できた」と言えるのか
  • 誰が検証し、誰が責任を負うのか

これらは、
事務改善の話ではなく、
統治の設計の話です。

おわりに

公文書管理条例は、
文書整理のための技術的ルールではありません。

それは、
自治体が住民に対して行う
説明責任の宣言であり、
その責任を果たし続けるための
制度的な起点です。

次回はいよいよ最終回として、
なぜ公文書管理が
「改革」と呼ばれなければならないのかを整理します。

本シリーズで扱っているテーマ

本稿は、文書・記録管理を「事務」や「補助業務」としてではなく、
価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤として捉え直す
連載シリーズの一編です。

シリーズ全体では、
民間企業から自治体へと視点を移しながら、
現場・経営・制度という異なるレイヤーから、
文書・記録管理の意味を構造的に整理しています。

シリーズ構成

  • 第1回
    価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤
    ――「四本柱」で考える、これからの文書・記録管理
  • 第2回
    なぜ多くの企業は「文書管理」でつまずくのか
    ――分断された四本柱という構造問題
  • 第3回
    文書・記録は誰のために存在するのか
    ――現場の困りごとから見えてくる、本来の役割
  • 第4回
    内部統制はなぜ「回っていない」と感じられるのか
    ――現場の記録が、説明責任につながらない理由
  • 第5回
    自治体における「経営の最上位責任」とは何か
    ――企業経営との共通点と決定的な違い
  • 第6回
    公文書管理条例は、何のために存在するのか
    ――事務規程ではなく「住民との約束」
  • 第7回(最終回)
    なぜ公文書管理は「改革」にならなければならないのか
    ――DXでも効率化でもない、本当の理由

    文書管理や公文書管理について、
    ほかの記事も書いています。
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