第1回 価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤――「四本柱」で考える、これからの文書・記録管理
シリーズ 価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤
――文書・記録管理を再定義する
企業や自治体において、
文書・記録管理は長らく「事務」や「裏方の仕事」として扱われてきました。
効率化や電子化の対象にはなっても、
組織の中核的なテーマとして語られることは多くありません。
しかし近年、
組織がなぜその判断を行い、どのような過程を経て現在に至ったのかを
説明できるかどうかが、あらためて問われています。
価値を生み出していても、
問題が起きていなくても、
説明できなければ信頼は維持できません。
本シリーズでは、
文書・記録管理を単なる業務手続や保存ルールとしてではなく、
価値創造と信頼を同時に成立させるための経営基盤として捉え直します。
前半では民間企業を念頭に、
現場の困りごとや内部統制との関係から、
記録がどのように経営を支えているのかを整理します。
後半では視点を自治体に移し、
説明責任が制度として求められる世界において、
公文書管理が果たす意味を考えます。
文書・記録管理を「面倒な仕事」から解放し、
組織の意思決定を支える基盤として再定義する。
本シリーズは、そのための思考の整理です。
第1回 価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤
――「四本柱」で考える、これからの文書・記録管理
はじめに
企業経営において、
価値創造と信頼確保は、しばしば別のテーマとして扱われてきました。
- 価値創造は事業部門の仕事
- 信頼確保は管理部門やIT部門の仕事
しかし、不祥事や経営トラブルを振り返ると、
この分断そのものが問題の出発点になっているケースが少なくありません。
本稿では、
価値創造と信頼をどちらかではなく、同時に成立させるための経営基盤を、
「四本柱」という構造で整理します。
この視点は、
民間企業だけでなく、
自治体を含むすべての組織に共通するものでもあります。
経営の最上位責任とは何か
経営者が最終的に負う責任は、突き詰めれば次の四点に集約されます。
- 価値を生み出しているか
- それを安定して届けられているか
- 社会からの信頼を損なっていないか
- それらを持続できているか
これらは独立した責任ではありません。
すべてが同時に成立していなければ、経営は成立しないのです。
この「同時成立」という要請は、
民間企業では株主や取引先に対して、
自治体では住民に対して向けられます。
対象は異なっても、構造は共通しています。
四本柱モデル:経営基盤の全体像
上記の最上位責任を支える構造を、次の四本柱で捉えます。

- 価値創造・競争力強化
- 品質マネジメント
- 情報セキュリティ
- 文書・記録管理
これらは役割分担ではありますが、
優先順位ではありません。
どれか一つが欠けても、経営は成立しません。
各柱の役割
① 価値創造・競争力強化
知識や経験を活用・再利用し、
事業や施策の質を高める力です。
戦略や企画、意思決定の質が問われます。
② 品質マネジメント
生み出した価値を、
安定して届け続ける力です。
民間では製品・サービス、
自治体では行政サービスや事務処理に現れます。
③ 情報セキュリティ
価値や信頼を損なう事故や不正を防ぎ、
組織の活動を止めない力です。
守ること自体が目的ではなく、
継続性の確保が本質です。
④ 文書・記録管理
これら三つを横断的に支える基盤です。
説明でき、検証でき、再利用できる状態をつくります。
なぜ文書・記録管理が「基盤」なのか
文書・記録管理は、
「事務的な仕事」「裏方の業務」と捉えられがちです。
しかし、次の問いに答えられない組織は、
どれほど価値を生み、品質やセキュリティを整えていても、
最終的に信頼を失います。
- なぜ、その判断をしたのか
- 誰が、いつ、どの前提で決めたのか
- 他の選択肢は検討されたのか
これらに答えるために必要なのが、
判断の過程を残した記録です。
四本柱は「分業」ではない
この四本柱は、
部門分担を示した図ではありません。
- 品質だけが良くても足りない
- セキュリティだけが強くても足りない
- 記録がなければ、すべて説明できない
四本柱は相互に依存しており、
どれか一つが欠けると全体が崩れます。
なお、本稿では理解を容易にするため、
各柱が主として現れる実装レイヤーを整理して示していますが、
実際の業務では、これらは横断的に絡み合っています。
おわりに
文書・記録管理を
「事務」や「補助業務」として扱い続ける限り、
価値創造と信頼は分断されたままです。
四本柱の視点は、
文書・記録管理を
組織が説明責任を果たし続けるための基盤として
捉え直すための出発点です。
次回は、
この四本柱がなぜ現実の組織では分断されてきたのかを、
現場の視点から掘り下げます。
本シリーズで扱っているテーマ
本稿は、文書・記録管理を「事務」や「補助業務」としてではなく、
**価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤**として捉え直す
連載シリーズの一編です。
シリーズ全体では、民間企業から自治体へと視点を移しながら、
現場・経営・制度という異なるレイヤーから、
文書・記録管理の意味を構造的に整理しています。
シリーズ構成
**第1回**
価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤
――「四本柱」で考える、これからの文書・記録管理
**第2回**
なぜ多くの企業は「文書管理」でつまずくのか
――分断された四本柱という構造問題
**第3回**
文書・記録は誰のために存在するのか
――現場の困りごとから見えてくる、本来の役割
**第4回**
内部統制はなぜ「回っていない」と感じられるのか
――現場の記録が、説明責任につながらない理由
**第5回**
自治体における「経営の最上位責任」とは何か
――企業経営との共通点と決定的な違い
**第6回**
公文書管理条例は、何のために存在するのか
――事務規程ではなく「住民との約束」
**第7回(最終回)**
なぜ公文書管理は「改革」にならなければならないのか
――DXでも効率化でもない、本当の理由
文書管理や公文書管理について、
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