第4回 なぜ、ふるさと納税は「担当者頼み」になってしまうのか ― 業務分析をしてこなかった行政運営の構造
ふるさと納税の問題が起きると、
「担当者の確認不足」
「引継ぎ不足」
「認識不足」
「担当者の独断」
「上司のチェックが甘かった」
といった説明がされることがあります。
もちろん、それ自体は間違いではありません。
しかし、ふるさと納税のような大規模業務で、毎回同じように「担当者の問題」が繰り返されるのであれば、そこにはもう少し構造的な背景があるようにも見えます。
なぜ、自治体では、これほど複雑化した業務が“担当者頼み”になりやすいのでしょうか。
その理由の一つは、日本の行政運営が、これまで本格的な「業務分析」をあまり必要としてこなかったことにあるのかもしれません。
ここでいう業務分析とは、
どんな業務が存在し、
誰が関わり、
どこで判断が行われ、
どんな調整が必要で、
どこに負荷が集中するのか、
そうした業務全体の構造を把握することです。
民間企業では、一定規模以上の事業になると、
業務フロー
役割分担
承認プロセス
契約管理
費用管理
内部統制
などを整理しながら運営することが珍しくありません。
もちろん、民間でも属人化は起きます。
しかし、少なくとも、
「誰かが分かっているから大丈夫」
だけでは運営できないという前提があります。
一方、自治体では、長い間、
制度に基づいて処理する
前例を踏襲する
必要に応じて調整する
という形で運営されてきました。
これは、日本の行政運営を支えてきた重要な仕組みでもあります。
特に従来の行政事務では、
業務量がある程度安定している
毎年ほぼ同じ業務を繰り返す
法令や通知が中心である
外部事業者との関係が限定的である
というものも多く、前例踏襲型でも回しやすい面がありました。
しかし、ふるさと納税は少し事情が違います。
制度改正が頻繁に起こる。
市場競争がある。
事業者対応がある。
広告やPRがある。
大量処理がある。
外部委託も増える。
寄附額や返礼品が急激に変動する。
つまり、従来の行政事務よりも、はるかに変化が大きく、関係者も多いのです。
しかも、これらが複数同時に動きます。
返礼品を増やせば、事業者対応が増える。
事業者が増えれば、契約や確認も増える。
広告を増やせば、費用管理も複雑になる。
寄附が増えれば、問い合わせや配送管理も増える。
一つの変更が、別の業務にも影響していきます。
ところが、こうした業務全体を横断的に整理しながら運営する経験は、自治体では必ずしも多くありませんでした。
その結果、
「とりあえず現場で回す」
「前任者から引き継ぐ」
「必要があれば都度調整する」
という形になりやすくなります。
もちろん、現場は実際によく回しています。
自治体職員は、限られた人数の中で、かなり複雑な調整を日々行っています。
実務の現場が努力で支えている部分は非常に大きいと思います。
ただ、その努力が大きいからこそ、逆に構造問題が見えにくくなる面があります。
本来は、
どこに重要な判断があるのか。
どこで確認が必要なのか。
どの業務が連動しているのか。
そうした整理が必要になっているのに、
現場の経験や勘で吸収できてしまうため、業務そのものを見直す議論に進みにくいのです。
そして問題が起きると、
「もっと注意すべきだった」、「確認を徹底する」
という話になりやすい。
しかし、それだけでは、同じ構造は残り続けます。
ここで重要なのは、
自治体職員の能力が低い、という話ではないことです。
むしろ逆で、今の自治体は、個人の経験や努力によって、かなり無理をしながら運営を維持しているようにも見えます。
だからこそ、
「担当者が頑張れば回る」
を前提にした運営には、少しずつ限界が見え始めているのかもしれません。
ふるさと納税は、そのことを非常に分かりやすく表面化させた業務の一つなのでしょう。
つまり、問題は、
単に「担当者がミスをした」「担当者が問題を起こした」という話だけではなく、
そもそも自治体が、
こうした複雑な業務を、
どのような考え方で運営してきたのか、
そこにまで遡って考える必要があるのかもしれません。
ふるさと納税は、制度そのものだけでなく、
これまでの行政運営の仕組みそのものに、
変化を迫っているようにも見えます。
そして、その変化に、今の自治体がまだ十分追いつけていない。
そこに、今の難しさがあるのではないでしょうか。

