はじめに

「電子化で文書管理が難しくなった」
「DXに追い付けない」

行政文書管理について、こうした説明をよく耳にします。

しかし、本当にそうでしょうか。

私は最近、むしろ逆ではないかと考えています。

問題は、電子化そのものではありません。

実は行政は、紙文書時代から既に複雑でした。
ただ、その複雑さを「時間」で吸収していただけなのです。


紙文書時代を支えた3つの前提

紙文書時代の行政運営は、次の3つの前提で成立していました。

① 収納思想

文書は、正しく作成されている。
だから、後は整理・保存すればよい。

この考え方です。

つまり、公文書管理の中心は、

  • 綴る
  • 分類する
  • 保存する
  • 廃棄する

でした。

これは「記録をどう残すか」というより、

「どう収納するか」という発想です。


② 課ごと管理

文書は、

  • 総務課の文書
  • 建設課の文書
  • 福祉課の文書

として管理されました。

しかし実際の行政業務は、昔から横断的でした。

例えば、

  • 契約
  • 予算
  • 補助金
  • 災害対応
  • 用地交渉

などは、複数課にまたがります。

それでも紙時代は、

  • 電話
  • 持ち回り
  • 庁内調整
  • ベテラン職員の経験

によって、何とか接続されていました。


③ 短期ローテーション

自治体では、3年前後で担当が変わることが珍しくありません。

しかし本来、文書分類や記録管理は、

  • 業務構造
  • 判断経緯
  • 制度運用
  • 記録要件

を理解して初めて改善できます。

ところが実際には、

「前任者から引き継いだ分類をそのまま使う」

運用になりがちです。

つまり、知識が体系化されず、

毎回、人が現場で解きほぐしていたのです。


昔は、それでも回っていた

では、なぜ問題化しなかったのでしょうか。

理由は単純です。

時間があったからです。

紙時代は、

  • 起案
  • 回覧
  • 押印
  • 郵送

に時間がかかりました。

社会全体も、今ほど即時性を求めていませんでした。

つまり行政は、

「丁寧に人間が解きほぐす時間」

を持つことができたのです。


電子化で問題が生まれたのではない

ここは重要です。

電子化によって、行政が急に複雑になったわけではありません。

むしろ、

昔から存在していた複雑さが、
社会全体の高速化によって、吸収できなくなった

のです。

現在は、

  • 即応要求
  • 人員減
  • 非正規化
  • 少人数運営
  • 同時並行業務

が進んでいます。

一方で、文書管理の構造は、

「紙を収納する時代」のまま残っています。


「人が何とかする」が限界を迎えている

従来の行政運営は、かなり厳しく言えば、

「構造化不足を、人間の調整能力と時間で覆う」

ことで成立していました。

しかし現在は、

その“余白”が急速に失われています。

すると、

  • 属人化
  • 引継ぎ困難
  • 重複管理
  • 所管不明
  • 情報散逸

が一気に表面化します。

これはDXの問題というより、

「低速時代の運営モデル」が、高速社会に耐えられなくなった問題

と言った方が近いでしょう。


必要なのは、「電子化」だけではない

必要なのは、単なる電子化ではありません。

本来必要なのは、

  • 業務構造の整理
  • 横断業務の可視化
  • 記録要件の明確化
  • ケース単位での把握
  • メタデータによる関連付け

です。

つまり、

「どこに収納するか」ではなく、

「何の業務記録なのか」

を中心に考える必要があります。


おわりに

紙文書時代の分類体系は、当時としては合理的でした。

しかしそれは、

  • 時間
  • 人手
  • 調整余力

がある社会で成立していた仕組みです。

現在は、その前提が崩れています。

それにもかかわらず、

「紙時代の収納思想」を電子上で再現し続ければ、

行政運営そのものが、次第に支えきれなくなる。

私は、そう考えています。

もし自治体の文書管理や業務整理について悩みがあれば、こうした視点から一緒に整理することもできます。現場感覚を踏まえて相談を受けていますので、気軽に声をかけてください。