ここまでの回で見てきたのは、
文書が整理され、そろっているにもかかわらず、
説明や引き継ぎの場面で探し回ってしまう、という現実でした。

その背景には、
文書をどう整理するかを優先して考え、
仕事の中で何が判断されているかを
後から振り返ろうとしてきた

という、私たちの考え方があります。
これは、整理や保存が不要だという意味ではありません。
何を判断している業務なのかよりも、
どう整理するかを重く考えてきた、
これまでのバランスの問題です。

つまり困っているのは、
整理が足りないことではなく、
仕事の途中で行われている判断が、
その時点では文書になっていない
ことでした。

この状況は、日本の企業だけに見られる
特別な問題ではありません。
実は、かつて多くの国や企業が
同じ壁にぶつかっていました。

転機になったのは、
説明責任やガバナンスが、
これまで以上に重く問われるようになったことです。

海外では、
「結果としての文書が残っているか」よりも、
「なぜその判断に至ったのかを、
後からたどれるか」

が強く求められるようになりました。

契約、監査、M&A、訴訟対応。
国境を越える仕事が増える中で、
判断の背景を説明できないことは、
大きなリスクになるからです。

そのため、
仕事が終わった後に資料を整えるだけでは足りない、
という認識が広がっていきました。

判断が行われたその途中で、
・何を比較していたのか
・どこで迷ったのか
・何が決め手だったのか
が、自然に残っていなければ、
説明も検証もできません。

こうした考え方は、
特定の先進企業だけのものではありません。
多くの国で、
仕事の流れの中で、記録や情報を管理する
という発想が、共通の前提になっていきました。

その流れは、
ISO 30301 が示す考え方を背景に、
実務の視点から整理されたガイダンスとして、
国際標準である ISO 30302:2022 に示されています。

ここで示されているのは、
新しい書類を増やすことでも、
現場に負担をかけることでもありません。

仕事の途中で生まれていた
判断の背景や意味を、
あとから思い出さなくても済む形で
残しておく。
それだけです。

日本の企業は、
文書を整理し、守ることについて、
長年高い水準を保ってきました。
これは大きな強みです。

これから必要なのは、
その強みに
「仕事の途中も含めて管理する」
という視点を、少し重ねることです。

文書は、
保存するためだけのものではありません。
説明し、引き継ぎ、
次の判断に使うためのものでもあります。

世界が先に進んだのは、
能力の差ではありません。
文書を見る視点が、
少しだけ変わった

それだけのことなのです。