沖縄県公文書館は、しばしば
「全国的に有名な公文書館」
「先進的なアーカイブズ」
として語られる。

本稿では、
有名な公文書館を有する沖縄県について、
その公文書管理条例の制度構造を確認していく。

評価や印象論から入るのではなく、
条例の条文構成や制度配置を手がかりに、
沖縄県の公文書管理がどのような前提で組み立てられているのかを
静かに読み解くことを目的とする。

1.沖縄県条例の全体像 ― 形式的には「標準的」

沖縄県の公文書管理条例は、

  • 公文書の作成・管理
  • 保存期間
  • 保存期間満了後の措置
  • 歴史的資料としての保存・利用

を定めており、
章立てや対象範囲の点では、
国の公文書管理法と大きく乖離するものではない。

このため、形式面だけを見ると、
沖縄県の条例は一見「標準的」に見える。

しかし、条例全体を通読すると、
どこに重点を置き、どこを前面に出していないかという点で、
他自治体とは異なる発想が組み込まれていることが分かる。

2.公文書館の使命の違い

――「事実を確認する装置」としての位置付け

**沖縄県公文書館**は、

  • 歴史を語るための施設

という役割を否定するものではないが、
それ以上に、

  • 行政が何を行ってきたのかを、
    後から確認・検証できるようにするための制度装置

としての性格が、強く意識されているように見える。

沖縄県においては、
行政の過去を物語として整理する以前に、
事実関係を裏付ける記録が残っていること自体が、
極めて重要な意味を持ってきた。

この点は、条例において
特定公文書等の範囲に、
個人や団体から寄贈された資料を含み得る

と整理されていることからも読み取れる。

公文書館が扱う対象を、
行政内部で作成・取得された文書のみに限定せず、
行政の行為や社会的事実を確認するために必要な資料全体へと
射程を広げている点は、
沖縄県の公文書館の使命を理解する上で、一つの特徴といえる。

3.大きな特徴

――「行政記録」と「歴史資料」を段階的に区別する発想が前面に出ていない制度

前節のような公文書館の使命を前提に条例を読むと、
沖縄県の公文書管理条例に見られる
制度構造の特徴がより明確になる。

一般に、自治体の公文書管理制度では、
行政文書として作成・管理されていた記録が、
保存期間満了後に評価を経て、
歴史的価値のあるものとして保存・利用の対象に移る、
という段階的な整理が説明されることが多い。

一方、沖縄県の条例では、
「行政文書から歴史資料へ」という
段階的な移行プロセスを
制度の中心に据えて説明しようとする構造は、
必ずしも前面には現れていない。

むしろ条例全体からは、
行政活動の記録が、作成された時点から
将来的な確認・検証や利用の対象となり得るものとして
位置付けられているように読み取れる。

このため、行政記録と歴史資料の関係は、
明確に切り替える対象というよりも、
一定の連続性をもって扱われていると理解する方が自然である。

行政記録と歴史資料を
制度上は区別しつつも、
それらを明確な段階として切り替える構造を
制度の前面に出していない点に、
沖縄県の公文書管理条例が持つ
制度的な特徴が見て取れる。

4.刑事事件に関する規定が示すもの

沖縄県の条例では、
刑事事件に関係する記録についても明示的に言及している。

重要なのは、
この規定が

  • 刑事責任を追及すること

を目的として置かれているのではなく、

  • 刑事行政を含めた行政行為について、
    将来にわたり確認・検証可能な形で扱う

という考え方を、
制度の中に位置付けている点である。

一般に、刑事事件関係の記録は、
捜査や裁判への影響、個人情報の保護等の観点から、
慎重な取扱いが求められるため、
制度上も「例外的な対象」として扱われることが少なくない。

沖縄県の条例が刑事事件に触れていることは、
その慎重さを前提としつつも、
刑事事件であっても行政の行為に関する記録であり、
将来の確認・検証に耐える形で位置付けておく必要がある
という立場を示していると理解できる。

この点は、
行政記録と歴史資料を連続的に捉える制度構造とも、
無理なく整合している。

5.公文書管理委員会の位置付け

沖縄県の公文書管理委員会は、
制度形式としては、
他自治体の公文書管理委員会と大きく異なるものではない。

ただし、沖縄県の制度全体を踏まえると、
委員会は、

  • 保存期間満了後の文書を
    段階的に「選別」する審判役

というよりも、

  • 記録が制度の趣旨に沿って扱われているかを
    全体として確認する機関

として位置付けられているように読める。

行政内部で作成された文書に加え、
寄贈資料など多様な来歴を持つ資料を含めて
特定公文書等を扱う制度において、
委員会は、個別の是非を断定する場というより、
制度運用の妥当性を確認するための装置として
機能する余地を持っている。

不正抑止や現用段階での牽制を
前面に押し出す設計ではない点も、
沖縄県の制度構造と整合的である。

おわりに ― 読み取るべき教訓

沖縄県の公文書管理条例は、
そのまま他自治体が模倣できるモデルだと
単純に言うことはできない。

しかし、

  • 記録を「行政の副産物」としてのみ扱わないこと
  • 行政内部文書に限定せず、
    事実確認に必要な資料全体を視野に入れること
  • 将来の確認・検証可能性を制度設計の中心に据えること

という点において、
多くの自治体にとって示唆を与える。

「公文書館が有名だから」ではなく、
「制度がそう組み立てられているから」。

沖縄県の公文書管理条例は、
そのことを静かに示している。

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