はじめに

前回は、
現場が文書・記録管理に対して抱いている
「ちゃんとやっているはずなのに、後で困る」という違和感を見てきました。

今回は、その違和感を一段引き上げ、
内部統制や説明責任と、現場の記録がどのようにつながっているのかを整理します。

ここでも、
評価や批判ではなく、
なぜそう見えてしまうのかという構造に焦点を当てます。

内部統制は「別の世界の話」になりやすい

多くの現場にとって、
内部統制は次のように受け止められがちです。

  • 規程やルールの話
  • 監査やチェックの話
  • 年に数回、対応すればよいもの

日々の業務とは、
どこか距離のある存在です。

そのため、内部統制は
業務の一部というより、後から対応するイベント
として意識されやすくなります。

現場は「統制を無視している」わけではない

ここで確認しておきたいのは、
現場が内部統制を軽視しているわけではない、という点です。

実際の現場では、

  • 規程を意識して判断している
  • 逸脱しないよう配慮している
  • 問題が起きないよう気をつけている

にもかかわらず、
そのことが後から伝わらない

このズレが、
「統制が回っていない」という印象を生みます。

内部統制が「回っている」とはどういう状態か

内部統制が回っている状態とは、
単にルールが存在していることではありません。

少なくとも、次の三点が説明できる必要があります。

  • どの前提条件のもとで判断したのか
  • どのルールを意識して行動したのか
  • なぜその判断を選んだのか

これらが説明できて初めて、
「統制が機能していた」と言えます。

記録がなければ、統制は“見えない”

ここで重要になるのが、
記録の役割です。

現場でどれほど慎重に判断していても、

  • 判断の根拠
  • 迷った点
  • 検討した選択肢

が記録として残っていなければ、
内部統制は後から確認できません。

つまり、
統制は、記録によって初めて見えるようになるのです。

「結果」だけでは統制は評価できない

監査や確認の場面では、
しばしば結果が問われます。

  • 問題は起きなかったか
  • 事故はなかったか

もちろん重要ですが、
結果だけでは統制の有無は判断できません。

  • たまたま問題が起きなかっただけなのか
  • 適切な判断が積み重なっていたのか

これを区別するために必要なのが、
判断の過程を示す記録です。

現場の記録が、経営を支える瞬間

現場にとって、
記録は「自分の仕事を守るためのもの」でした。

一方で、その記録は、

  • 経営が説明責任を問われたとき
  • 組織として判断を振り返るとき
  • 再発防止や改善を考えるとき

に力を発揮します。

現場の判断が記録として残っていることで、
内部統制は
仕組みとして回り始めるのです。

おわりに

内部統制が「回っていない」と感じられる背景には、
現場の判断と、後からの説明の間にある断絶があります。

その断絶を埋めるのが、
文書・記録管理です。

現場のために書かれた記録が、
結果として内部統制を支え、
経営の説明責任につながっていく。

次回は視点をさらに広げ、
自治体という組織では、この説明責任がどのような意味を持つのかを見ていきます。

本シリーズで扱っているテーマ

本稿は、文書・記録管理を「事務」や「補助業務」としてではなく、
価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤として捉え直す
連載シリーズの一編です。

シリーズ全体では、
民間企業から自治体へと視点を移しながら、
現場・経営・制度という異なるレイヤーから、
文書・記録管理の意味を構造的に整理しています。

シリーズ構成

  • 第1回
    価値創造と信頼を同時に成立させる経営基盤
    ――「四本柱」で考える、これからの文書・記録管理
  • 第2回
    なぜ多くの企業は「文書管理」でつまずくのか
    ――分断された四本柱という構造問題
  • 第3回
    文書・記録は誰のために存在するのか
    ――現場の困りごとから見えてくる、本来の役割
  • 第4回
    内部統制はなぜ「回っていない」と感じられるのか
    ――現場の記録が、説明責任につながらない理由
  • 第5回
    自治体における「経営の最上位責任」とは何か
    ――企業経営との共通点と決定的な違い
  • 第6回
    公文書管理条例は、何のために存在するのか
    ――事務規程ではなく「住民との約束」
  • 第7回(最終回)
    なぜ公文書管理は「改革」にならなければならないのか
    ――DXでも効率化でもない、本当の理由

    文書管理や公文書管理について、
    ほかの記事も書いています。
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