英国事例に学ぶ「Record Review」 ―― 移管前に行われる評価は、何を支えているのか
本記事では、
英国において制度として確立している Record Review について、
「いつ」「誰が」「何のために」行っているのかを中心に紹介する。
日本では、公文書の評価・選別は
保存期間が満了した後(多くは30年後)に行われることが一般的である。
それに対し英国では、
評価はアーカイブへの移管前、しかも段階的に行われる。
この違いは、単なる年限設定の差ではない。
記録をどのようなものとして位置づけているかという
制度思想の違いを反映している。
英国の「Record Review」とは何か
英国における Record Review とは、
業務で作成・利用された記録について、
一定期間の経過後に、保存・保存期間延長・最終的な扱いを見直す
制度的な評価プロセス
を指す。
これは、
「歴史的価値があるかどうか」を最終段階で判断する作業ではない。
- 判断に至る過程が説明できるか
- 記録としての証拠性が保たれているか
- 将来の検証に耐えうる内容か
といった点を、
記録がまだ業務文脈を保持している段階で確認する行為である。
この制度は国だけのものなのか
Record Review は、
英国の中央政府に限定された制度ではない。
- 各省庁
- 行政機関
- 地方自治体(Local Authorities)
- その他の公的機関
といった公的部門全体で、
共通の考え方として採用されている。
地方自治体においても、
- 一定期間が経過した業務記録について
- 記録管理の専門性を踏まえ
- 業務部門と協力しながら
アーカイブ移管前にレビューを行うことが、
記録管理プロセスの一部として組み込まれている。
英国では、Record Reviewは「いつ」行われているのか
英国の Record Review を理解するうえで、
最も重要なのは 評価のタイミングである。
結論から言えば、英国では、
アーカイブに移管されるかなり前に、
しかも一度きりではなく、段階的に
Record Review が行われる。
一般的なタイミング(国・自治体共通)
- 作成・利用段階(業務中)
記録は業務遂行のために管理される - 一定期間経過後(例:5〜10年程度)
▶ 最初の Record Review - さらに期間経過後(例:15〜20年程度)
▶ 次の Record Review - 最終的にアーカイブへ移管
▶ 公文書館での長期保存・公開へ
重要なのは、
「30年待って一度だけ評価する」設計ではない
という点である。
この考え方は、
The National Archives
が示す記録ライフサイクルのガイダンスにも一貫している。
日本との運用上の対比
| 観点 | 英国 | 日本 |
| 評価の開始時期 | 移管前(5〜10年程度) | 保存期間満了後(多くは30年) |
| 評価の回数 | 複数回・段階的 | 原則1回 |
| 文脈の把握 | 判断背景を説明しやすい | 困難な場合が多い |
| 公文書館の関与 | 移管前評価を前提に受入 | 移管後に本格関与 |
ここで重要なのは、
優劣ではなく、時間軸の違いである。
The National Archives の役割
英国の制度を支えているのが、
The National Archives
である。
TNA は、
- 各機関の記録を一律に評価・選別する立場
ではない。 - 原則や考え方を示す
- 各機関の判断を支援する
- 永久保存記録を受け入れる
という役割を担っている。
すなわち、
評価はアーカイブ移管前に行われ、
公文書館はその結果を引き受ける立場にある
という分担が明確である。
早期のRecord Reviewが持つ、もう一つの意味
英国における早期の Record Review は、
廃棄や選別そのものを目的とした制度ではない。
定期的に評価が行われることで、
- 現用部門は
「この記録はいずれ見直される」ことを前提に業務を行う - 判断過程や理由が
将来、検証の対象となることが意識される
これは、
業務部門への制度的な牽制であると同時に、
行政の意思決定が
将来の検証を前提として行われていることを示す
注意喚起の仕組みでもある。
評価結果が、住民とアーカイブを結びつける
もう一つ重要なのは、
Record Reviewの「結果」そのものが、
住民の関心を引きつけ得るという点である。
評価を通じて、
- どのような政策判断が
- どのような経緯で行われ
- どの記録が将来に引き継がれるのか
が整理されると、
その内容自体が、
住民にとって「確認したい情報」になる。
結果として、
記録そのものだけでなく、
それを受け入れ、公開する
アーカイブ(公文書館)の役割にも注意が向く
という好循環が生まれる。
評価が「静かな内部作業」にとどまらず、
社会との接点を持つ工程として機能している点も、
英国事例の重要な特徴である。
おわりに
英国の Record Review は、
- 移管前に
- 段階的に
- 説明責任を前提として
評価を行う制度である。
それは
「捨てるための評価」ではなく、
記録の作り方・残し方に緊張感を与え、
その結果を通じて住民とアーカイブを結びつける評価
と言い換えることができる。
本記事では、まずこの英国事例を、
制度の事実関係として整理して紹介した。

