はじめに

これまでの記事では、自治体の仕事を「定型型」「事案処理型」「プロジェクト型」という3つの仕事のかたちで整理し、実際の業務に当てはめながら考えてきました。
定型事務だけでは説明できない仕事があり、判断を伴う事案処理として捉える必要がある仕事がある。その点までは、多くの方が実感として共有できたのではないでしょうか。

しかし、事案処理型業務として整理したあとでも、なお割り切れない仕事があります。
判断があり、説明責任も重い。それなのに、単発の事案とも、プロジェクトとも言い切れない。
現場では、こうした業務に対して「何か違う」という感覚を抱いたまま、日々の対応が続いているのではないでしょうか。

その割り切れなさの正体は、多くの場合、「継続する」という性格にあります。
一つ一つの対応は事案処理であっても、それが時間をまたいで積み重なり、前回の判断が次の判断の前提になる仕事。
本記事では、この「継続する事案」に焦点を当て、なぜそれが事案処理型業務の中でも難所になるのかを、構造から整理してみたいと思います。

第1章 なぜ「継続する事案」は難所になるのか

1-1 単発の事案と、継続する事案の違い

単発の事案処理では、
事案が発生し、判断を行い、処理が完了します。
後から振り返る際も、「この事案について、どう判断したか」を説明すれば足ります。

一方、継続する事案では、判断は一度で終わりません。
次の判断は、前回の判断を前提に行われ、事案そのものも時間とともに姿を変えていきます。

ここで重要なのは、**判断が「積み重なる」**という点です。
単発の事案では判断は点として存在しますが、継続する事案では、判断が線となり、履歴として連なっていきます。
この違いが、業務の性格を大きく変えます。

1-2 難しさは「量」ではなく「時間」にある

継続する事案が難しい理由は、文書が多いからでも、業務が複雑だからでもありません。
本質は、時間をまたいで判断が蓄積されることにあります。

数年前の判断が現在の前提になり、当時は妥当だった判断が、今の状況では再検討を要する。
担当者や年度が変わっても、事案そのものは連続しています。
ここに、「年度で区切る」「案件で整理する」という従来の発想とのズレが生じます。

1-3 継続する事案では、「前回の判断」が常に問われる

継続する事案では、現在の判断を説明するために、必ず過去の判断を参照する必要があります。

  • なぜ、これまでそのように対応してきたのか
  • その判断は、どんな前提に基づいていたのか
  • 何が変わったから、今回の判断が必要になったのか

つまり、
「今、何を判断したか」だけでは足りず、
「これまで、どう判断してきたか」そのものが説明の対象になる

という構造を持っています。

第2章 プロジェクト型と何が違うのか

2-1 一見すると、プロジェクトに似て見える理由

継続する事案は、長期間続き、判断が何度も入り、状況に応じて対応が変わります。
この点だけを見ると、プロジェクト型業務に似て見えるのも無理はありません。

しかし、この見え方こそが、整理を難しくしている原因でもあります。

2-2 決定的な違い①:目的と終了条件

プロジェクト型業務には、目的と終了条件があります。
行政側が「ここで終わり」と設計でき、成果物が明確です。

一方、継続する事案では、終了は行政が決めるものではありません。
事案の状況次第で突然終わることもあれば、長く続くこともあります。

「完了」という概念が成り立たない
これが、プロジェクト型との決定的な違いです。

2-3 決定的な違い②:判断の性質

プロジェクト型の判断は、仮説の更新です。
よりよい成果に近づくために、判断を修正していきます。

これに対し、継続する事案での判断は、
その時点での状況を踏まえた処遇の決定です。
一つ一つの判断が、現実の対応として積み重なり、次の判断の前提になります。

同じ「判断」でも、意味はまったく異なります。

第3章 個人に紐づく記録を、どう考えるか

3-1 「案件」ではなく「人」に紐づく仕事

継続する事案では、仕事の単位は「案件」ではなく、
特定の個人や主体に紐づいています。

一回一回の対応は事案処理ですが、全体としては、
同じ相手に対する判断の連続として存在します。
業務の焦点は、「この案件をどう処理したか」ではなく、
「この人に対して、これまでどう判断してきたか」に移ります。

3-2 ここで一つ、典型的な例を思い浮かべてみる

たとえば、生活保護に関する記録を思い浮かべてみてください。

一つ一つの決定は、法令や基準に基づく事案処理です。
しかし、生活状況の変化に応じて判断は何度も行われ、その都度、過去の経過が前提になります。

この仕事を、プロジェクトとして捉えることはできません。
目的達成で完了するものではないからです。
また、単発の事案として扱うと、判断の連続性が見えなくなります。

この例を通じて、継続事案の性格が直感的に理解できるのではないでしょうか。

3-3 「一つ一つは正しいのに、説明できない」問題

継続事案で起きやすいのが、
個々の判断は妥当なのに、全体として説明しにくいという状況です。

それは判断が誤っているからではなく、
判断同士の関係が見えなくなっていることが原因です。

ここで問われるのは、
「その時に正しかったか」ではなく、
「これまでの判断を通して、一貫した説明ができるか」
という視点です。

第4章 継続事案処理型という考え方

継続する事案は、事案処理型業務の中でも、特有の性格を持っています。
単発の事案と同じ整理では無理が生じるため、
「継続事案処理型」として捉えるという整理が有効になります。

これは、新しい分類を増やすための話ではありません。
これまで説明しにくかった業務を、説明できる言葉で捉え直すための整理です。

ここで大切なのは、管理方法ではなく、

この仕事では、
何が説明できなければならないのか

という問いを共有することです。

おわりに

― なぜ、この難所を避けて通れないのか

継続事案が難しいのは、職員の努力不足でも、運用が甘いからでもありません。
難しさの正体は、判断が時間をまたいで積み重なり、前回の判断が次の判断の前提になるという、業務の構造そのものにあります。

この構造を、単発の事案やプロジェクトと同じ発想で扱おうとすると、
「一つ一つは正しい判断のはずなのに、全体として説明しにくい」
という状態が生じます。
それは失敗ではなく、捉え方が追いついていないだけなのかもしれません。

まずは、自分たちの業務の中に、
一度の判断で終わっていない仕事はないか。
前回の判断や経過を参照しなければ、今回の対応を説明できない業務はないか。
案件ではなく、特定の人や団体に紐づいて、静かに続いている仕事はないか。

そうした視点で日々の業務を振り返ってみると、
「継続する事案」として捉え直した方が、しっくりくる仕事が、
思いのほか多いことに気づくかもしれません。

継続事案という難所をどう捉えるかは、
これからの公文書管理のあり方を左右する、大きな分かれ道です。
制度や仕組みの話に進む前に、
まず、この構造を共有することが、何より重要なのではないでしょうか。

次回予告(第4回)

次回は、継続事案処理型業務を念頭に、
判断の途中経過や経過記録が、
どのような意味を持つのかを考えます。