「なぜ世界では“仕事の途中”を管理するのか」(自治体第5回)
ここまでの回で見てきたのは、
文書は整理され、きちんと保存されているのに、
説明や引き継ぎの場面で、資料や人を探し回ってしまう、という現実でした。
その背景には、
文書をどう整理するかを優先して考え、
業務の中で何が判断されているかを
後から振り返ろうとしてきた
という、これまでの考え方があります。
これは、文書整理や保存が不要だという意味ではありません。
業務の内容よりも、
整理の仕方を重く考えてきた、
そのバランスの問題です。
困っているのは、
文書が足りないことではありません。
業務の途中で行われていた判断が、
その時点では文書になっていないことです。
この状況は、
日本の自治体だけに見られるものではありません。
実は、かつて多くの国や行政機関が、
同じ課題を抱えていました。
転機になったのは、
説明責任やガバナンスが、
これまで以上に重く問われるようになったことです。
海外では、
「決定文書が残っているか」よりも、
「なぜその判断に至ったのかを、
後から説明できるか」
が強く求められるようになりました。
政策決定、公共調達、監査対応、住民説明。
こうした場面で、
判断の経緯を文書で示せないことは、
行政への信頼そのものに関わるからです。
そのため、
業務が終わった後に文書を整えるだけでは足りない、
という認識が広がっていきました。
判断が行われたその途中で、
・何を比較していたのか
・どこで意見が分かれたのか
・何が決め手になったのか
が、自然に残っていなければ、
説明も検証もできません。
こうした考え方は、
一部の先進的な自治体だけのものではありません。
多くの国で、
業務の流れの中で、記録や情報を管理する
という発想が、共通の前提になっていきました。
その流れは、
ISO 30301 が示す考え方を背景に、
実務の視点から整理されたガイダンスとして、
国際標準である ISO 30302:2022 に示されています。
ここで示されているのは、
新しい書類を増やすことでも、
職員に負担を強いることでもありません。
業務の途中で生まれていた
判断の背景や意味を、
あとから思い出さなくても済む形で
残しておく。
それだけです。
日本の自治体は、
文書を整理し、保存することについて、
長年、高い水準を保ってきました。
これは大きな強みです。
これから必要なのは、
その強みに
「業務の途中も含めて管理する」
という視点を、少し重ねることです。
文書は、
保存のためだけのものではありません。
説明し、引き継ぎ、
次の行政判断に活かすためのものでもあります。
世界が先に進んだのは、
自治体の能力の差ではありません。
文書を見る視点が、
少しだけ変わった
それだけのことなのです。

